公開: 2023年3月20日
更新: 2023年4月12日
カントは、18世紀から19世紀前半のドイツを代表する哲学者です。この頃のドイツでは、イギリスで主流だった経験論哲学に対抗する、観念論と呼ばれる考え方が主流でした。カントは、ドイツの観念論者の代表的哲学者です。経験論では、現実に確認できる客観的観察を重要視するのに対して、観念論では、いくら現実を観察しても解明できない真理がその裏に隠れている場合があるとして、その真理を求めようとします。
カントは、「純粋理性批判」と題した書物の中で、数学や物理学で言う「空間」は、どんなに実際の空間を見ても、原点を中心に上下左右へと、無限に広がる空間を思い描くことはできないと主張しました。それは、私たちが無限の空間の例を見た経験がないからです。しかし、古代の数学者は、有限な空間を見た経験を抽象して、無限の広がりを持つ空間を思い描き、数学的空間の概念を構築しました。時間の概念はさらに難しいのですが、人類は、紆余曲折を経て、それを獲得しました。これらの概念は、経験論では獲得が不可能なことである、とカントは主張したのです。
「純粋理性批判」で議論された空間や空間の概念は、数学やそれに近い物理学の概念であり、現実世界の抽象に関する問題です。これらは、プラトンがピタゴラス学派から学んだ現実の抽象化とそれに基づいた、誤りの入りにくい議論の構築に関係した方法です。その意味でも、カントの議論は、経験を超越した対象の理解にありました。この思考方法を倫理観にも適用して、カントは、イギリスで提案された効用論を批判しました。それが、「実践理性批判」にまとめられています。ここでは、カントは、キリスト教的な神の概念があることを前提に、善を為すことの議論を展開しました。
カントにとっては、「神」の概念も、「空間」の概念と同じように、人間の経験から自然に生まれるものではなく、人間に与えられた超自然的な直観によって得られる、「真理」に接近するための、特別な能力を使わなければ、得られないものであると主張しました。
カント著、「純粋理性批判」上下、岩波文庫(1961)